ブノアメシャン『灰色の狼』

 ブノアメシャン『灰色の狼 ムスタファ・ケマル 新生トルコの誕生』(牟田口義郎訳、筑摩書房、1965年)を読了。新生トルコ初代大統領のムスタファ・ケマルは怒りっぽく、病的なほど疑い深くて人付き合いが悪く、乱暴であって拳骨や脅しも効き目がなかった。ムスタファは将校になりたかったので、オスマン軍の学校に出掛けて優等生のリストに記されたが、戦友たちから悪く思われた。

 ムスタファ・ケマルが生まれたバルカンでは毎日のように革命のビラが撒かれ、彼の頭には教義や理論がぎっしりと詰め込まれた。オスマン帝国には幾多の欠陥があったが、最高級の職場が万人に解放されているという長所があった。農民であったムスタファは青年トルコ革命を起こした「統一と進歩」委員会に属したこともあり、第一次世界大戦ではガリポリ半島の防衛を任され、敵の英軍を撤退させて英雄となった。

 兵士が上官に従うか否かは有能かどうかで、アナトリアは以前より帝国に兵を供給してきたが、敗戦に際して皇帝と争ったムスタファ・ケマルにも革命の兵士を供給した。ムスタファは資質には非常に恵まれ、アナトリアを新生トルコへ再編成するに当たり、クルド人の虐殺やアルメニア人の絶滅、ギリシア人の追放なども行ったが、どれほど手を血に染めてもそれに狂うことはなかった。むっつりな引っ籠もり屋のムスタファは誰とも仲良しにならず、自分が決めた境界を決して譲らず、そのことが革命を暴走させずに済ませた。