「バトル」に出した一首

一昨日の夕方、宇都宮にて、短歌人夏季全国集会のイベント「いい歌バトルin宇都宮」[*1]に出場しました。

第1試合より第3試合まで、各試合2人1組のチーム同士のタッグマッチ。僕は第1試合の前半、つまりトップバッターで出場しました。チームを組んだのは藤原龍一郎さん。相手方は角山諭さんと宇都宮敦さん(ゲスト)のチーム。前半は僕と角山さんの対戦。

お互いに最近読んだ「いい歌」一首を出して、いかにこちらの歌がいい歌で、相手方の出してきた歌がいい歌ではないかをディベートするという対戦でした。

僕が出した「いい歌」は…

敗荷(やれはす)をふかくしづめて秋晴れは池のかたちに空を嵌めたり   都築直子

「短歌往来」2016年12月号掲載の都築さんの一連「水のある風景」21首の1首目。この歌ないしこの一連についてはこの日記でふれたことはありませんでしたが、巧みな歌が並んだ一連と思って感心して読んだ作品でした。

何と言っても「秋晴れは…」のレトリックが巧い。池の面に空が映っていてそれは秋晴れの空だ、ということなのだが、それを「秋晴れ」を主語とした構文に仕立て、さらにそこへ「嵌める」という動詞を持ってくる。この「嵌める」などという語はそうそう出るものではない。

さらに初句・2句もニュアンスに富むフレーズで、「敗荷」という美しからざる残骸が、この美しい景の奥に秘められているのだ、という。「しづめて」は「沈めて」でもあり「鎮めて」でもあり「静めて」でもあるだろう。「敗」の字がじんわりと負のイメージを伝える。眼前の美しい景はフラットに美しいのではない、それは美しからざるものを内蔵しているのだ、という美の奥行きが感じられる。

作者が「敗荷を…」というフレーズを置くことができたのは、この池は馴染みの池で、夏の頃には池の面に蓮が美しい花を咲かせていたのを見ていたからだろう。と思えば、そこには夏から秋へという季節の推移、つまり時間の奥行きも感じられる。

このようにして初句から結句に至るまで言葉の選択に全く無駄がなく、すべての語がうまくかかわりあってこの一首の世界を構築していて、これはもういい歌だとしか言いようがないだろう。あえて言うなら、巧すぎる、あまりにも完成されたものにはかえって親しみが抱けない、ぐらいしか突っこみようがないのではないか。

というようなことを弁じ、さらに、相手の角山さんが日頃「短歌人」に出される歌もいい歌で、その角山さんの歌の良さは僕の地図ではこの都築さんの歌の良さと同じ場所にある、だから角山さんがこの歌は良くないなどと言われたなら、その言葉は角山さん自身にもふりかかってくることになるだろう、とか、「短歌研究」(2017.5)の鼎談による評でこの都築さんの一連が取り上げられていて、その中で穂村弘さんがこの歌の下の句は巧いと言い、「これが巧いと思うかどうかが歌人になるかどうかの分かれ目」と言っている、角山さんは十二分に歌人であるから、この巧さはよくおわかりになるはずだ……、などと追い討ちをかけたのでありました。

いや、まあ、ほんとうは僕はディベートというものが好きではなく、学校教育にディベートを導入しようという意見にも反対で、俳句甲子園というのはまさにそのディベートなのですが、あんなことばかりやっていたら高校生の人格形成に悪影響が生じるだろう、などと常日頃は思っているのですが、出場するからには、せんかたなし、その時間だけは別人になってバトラーを演じよう、ということにしたのでした。

都築直子さんはかつてスカイダイビングをやっていたひとで、そうした作者の経歴を知っている読者なら、あるいはこの池の面の景には、その頃、彼女が大空から舞い降りながら見た池の景のイメージが込められているのかも知れないとも思うだろう、というようなことも最後にチラッと付け加えましたが、これはちょっと蛇足だったかも知れません。

相手の角山さんが出された歌は、「老けてゆくわたしの頬を見てほしい夏の鳥影揺らぐさなかに」(大森静佳「鳥影」=角川「短歌」2016.7)。これももちろん(!)いい歌で、いい歌はいいよねえ、で終りにしたいところ、「老ける」という語はいささかアバウトで、「老ける」ことにマイナスのイメージを付与してしまうこの時代と社会の価値観に縛られてしまうのではないか、頬に皺が増えゆくぐらいに具体的に言った方がよかったのではないか、とか、「鳥影揺らぐ」はほんのちょっとした時間だが、「〜のさなかに」というのはもう少し長い時間を言うのではないか、などと言ってみました。まあ、ケチをつけてみました、ということであります。

藤原さんが出された歌は、「あかねさす紫野ゆきゆきゆきて、神軍けふをとどまらざらむ」(水原紫苑「ヘヴンリーブルー」=「東京新聞」2017.6.24夕)[*2]、宇都宮さんが出された歌は、「犬がね、とあなた言うたび駆けてくるばくぜんと透明な四つ足」(斉藤斎藤『人の道、死ぬと町』)。

第2試合は斎藤典子さんと小島熱子さんのチーム・対・黒崎聡美さんと大平千賀さんのチームの対戦、第3試合は西村美佐子さんと小池光さんのチーム・対・内山晶太さんと服部真里子さん(ゲスト)のチームの対戦でした。

それぞれの対戦について、川田由布子さんと中地俊夫さんがコメントを述べる時間が設けられましたが、各対戦についてどちらのチームの勝ち、などという判定は下さず、最後にベストバウト賞を会場の拍手で決めました。予想通りというか、期待通りというか、ベストバウト賞はラストの小池さん・対・服部さんの対戦に決まりました。くだんの「水仙と盗聴…」をめぐるやりとりの延長戦のような対戦でした。

この企画は斉藤斎藤さんがプロデュースされたもので、昨年まではどなたかの講演を聴く時間だったところ、新たな試みとしてこうした企画が提案されたのでした。「バトル」の後のパーティーと深夜サロンの時間に、何人かの方に、あの企画はどうでしたか? とうかがってみましたら、一人の例外もなく、おもしろかった、講演を聴くよりはああいう企画の方がいい、来年以降も続けてほしい、というご意見でした。斉藤さんの提案、ひとまずは大成功だったようでした。

僕はトップバッターでしたので、エンジンをかけて「バトル」の流れを作らなければと思って、ちょっとプレッシャーだったのですが、最低限の任務は果たすことができたのではないかと思い、ホッとしています。

昨日はいつも通り、午前〜午後の時間をフルに使っての短歌人全国歌会。服部さんは昨日の歌会にも最後まで参加してくださって、シャープな評を述べてくださいました。

[*1]http://SNS.jp/view_diary.pl?id=1961135921&owner_id=20556102

[*2]http://SNS.jp/view_diary.pl?id=1961683163&owner_id=20556102

[付記]写真2葉、勺禰子さんのフェイスブックよりお借りしました。

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